株式会社NEWGREEN Revivix株式会社

連載|農業を科学する 第1回「昔はもっと楽に育った」の正体

連載|農業を科学する 第1回「昔はもっと楽に育った」の正体

肥料を増やしても収量が伸びにくい——その背景は80年前から始まっていた

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こんにちは、農業・土壌コンサルタントの須藤貴之です。
ニュージーランドを拠点に、Eric Kawabe & Associatesで社長のオテリーアップシャール、コンサルタントの須藤弥彦と3名で農業者のみなさんの土壌改良のお手伝いをしています。

これから弊社を創設したエリック川辺博士の教えをもとに、3名でこの連載をお届けしていきますので楽しみにしていてください。

第1回目は須藤貴之が執筆します。

minorasu(ミノラス)の画像

須藤貴之
農業・土壌コンサルタント有資格者。ニュージーランドの農業・土壌コンサルティンググループであるEric Kawabe & Associatesに10年以上所属し、アメリカの土壌分析ラボと提携しながら、農業における土壌改善と生産性向上に従事。

私たちが農業者のみなさんと向き合う中で、現場から繰り返し聞こえてくる声があります。

肥料を増やしても、思ったほど収量が伸びない。
年々、手間もコストもかかるようになってきた。
そんな感覚をお持ちなら、それは気のせいではないかもしれません。

しかも、その原因はみなさんの工夫や技術の問題ではなく、もっと長い時間をかけて積み重なってきた“土の歴史”にある可能性があります。
まずは第1回として、私たちの足元の土がこの80年でどう変わってきたのかを見ていきましょう。

土が変われば、同じやり方でも結果は変わる

「昔はもっと楽に育った」「肥料は入れているのに、思うように伸びない」「コストは上がるのに、利益は増えない」

こうしたモヤモヤは、個々の技術や努力の問題だけでは説明しきれません。
実は、第二次世界大戦後から続いてきた農業の大きな流れの中で、土そのものが少しずつ変わってきたからです。

窒素肥料が引き出した「土の貯金」

戦後、世界は将来の人口増加、それに伴う食糧問題に直面しました。

その中で大きな役割を果たしたのが、戦後、未使用で残っていたアンモニアガス兵器を窒素肥料として流用することから始まった窒素肥料を中心とした近代農業の発展です。
この流れは、多くの地域で収量を大きく押し上げました。たとえば小麦では、1haあたり約2tだった収量が瞬く間に倍以上にまで伸びたとされます。人類の食を支えた大きな成果であり、「緑の革命」とも呼ばれています。

ただし、この収量増は窒素だけの力で起きたわけではありません。
当時の土壌には、地球上に土壌が誕生して以来、数億年をかけて蓄えられてきたミネラルや有機物がまだ豊富にありました。
窒素肥料は、それらを一気に引き出す“起爆剤”のような役割を果たしていたのです。

収穫のたびに、土の蓄えは少しずつ減っていった

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繰り返される耕起と収穫が、土壌の蓄えを少しずつ変えていく。

その後、作物の収穫とともに、表土にあったミネラルは少しずつ圃場の外へ持ち出されていきました。
足りなくなった分を補うため、深い層の土を表に返す「深耕反転」が行われた時代もあります。

この方法は、まだ下層に残っていたミネラルを使ううえで一定の効果がありました。ただ、これも永遠に続く方法ではありません。
数億年かけて土壌中に蓄えられたミネラルの収奪にも限界があります。さらに、過度な耕起を繰り返す事で土壌中の有機質(炭素)は失われ、微生物活動も抑制されていきました。

「肥料を入れる=NPKを入れる」が常識になった

こうした流れの中で、農業の現場ではNPK、つまり窒素・リン・カリウムを中心に考える施肥体系が広く定着しました。
もちろん、NPKは作物にとって重要です。この考え方が収量増に大きく貢献したことも事実です。

ただ、植物が必要とする要素はそれだけではありません。カルシウム、マグネシウム、銅、亜鉛など、土の働きを支える要素はほかにもあります。
にもかかわらず、「必要な三要素を入れているのに、なぜか結果が安定しない」という圃場が増えてきたのは、その“見えていない部分”が少しずつ積み重なってきたからかもしれません。

ここで大切なのは、これは農業者個人の判断ミスではないということです。その時代に手に入る知識と資材、普及の仕組みの中で、現場は最善を尽くしてきました。今起きていることは、業界全体で積み重なってきた構造の問題として見る必要があります。

「常識」の中にも、見直すべきものがある

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ジャガイモの掘り起こし調査。そうか病とpHの関係は、現在では別の角度から理解されている。

現場には、長年の経験から生まれた貴重な知恵があります。たとえば「この条件だと病気が出やすい」「この畑は同じやり方では反応が違う」といった感覚は、決して軽く扱えるものではありません。

一方で、昔からの「常識」の中には、今の科学で見直されてきたものもあります。
その一例が、ジャガイモのそうか病とpHの関係です。長く「pHが高いと出やすいから石灰は控えるべきだ」と言われてきました。

ですが、pHが高いからそうか病が出る、という単純な関係ではないことがすでに明らかになっています。発生にはミネラルバランスや微生物の状態が深く関わっており、石灰もpH調整剤としてだけでなく、カルシウムという栄養を届ける役割を持っています。

こうした例からもわかるように、「昔からこう言われているから」で止まるのではなく、「自分の圃場で今、何が起きているのか」を土の状態から見直すことが、これからはますます重要になっていきます。

「手がかかるようになった」には理由がある

ここまで見てきたように、その背景には80年かけて進んできた土壌の変化があります。
だからこそ、希望もあります。土の状態は、感覚だけでなく、科学的に見える化できます。

何が足りないのか。
何が多すぎるのか。
どこにバランスの崩れがあるのか。

それがわかれば、これまで積み重ねてきた経験は、もっと確信を持って使えるようになります。
経験と科学は、どちらか一方を選ぶものではありません。両方が揃ったとき、次の一手はもっと明確になります。

次回は、「なぜ隣の農業者でうまくいったことが、自分の畑では通用しないのか」を取り上げます。

同じ地域、同じ品種、似たような管理でも結果が変わるのはなぜなのか。
その背景にある「再現性の科学」を、皆さんの実感とつなげながら見ていきます。

須藤貴之による「土づくり勉強会&Humus活用圃場 視察会」を開催します

この連載でお伝えしていることを、現場で一緒に確かめてみませんか。
2026年7月、私が直接お話しする勉強会と、土壌改善を支援するサービス「Humus」を導入している農業者の圃場を見学する視察会を、東北・関東各地で開催します。

当日のプログラム(13〜20時)
 1. 須藤貴之による土づくり勉強会
 2. Humus実践圃場の視察会(バス移動)
 3. Humus実践農業者を交えた懇親会(会費制・任意参加)

開催日程
 ● 2026年7/3(金)山形県・鶴岡
 ● 2026年7/6(月)秋田県・大館
 ● 2026年7/7(火)青森県・五所川原
 ● 2026年7/13(月)茨城県・境町
 ● 2026年7/15(水)新潟県・新潟

会場の詳細は申し込み後にご連絡します。農業者の方のみご参加いただけます。

minorasu編集部

minorasu編集部

minorasuは、「農業経営をより効果的に実践したい」「これまでなかなか踏み込めなかった農業経営にまつわるノウハウを学びたい」といった、農家の皆さまのお悩みに応えるためのメディアです。それぞれの課題を乗り越えるのに役立つよう、生産効率、資金計画、加工・流通など様々な角度から情報をお届けします。