連載|農業を科学する 第4回 ミネラルバランスが解く雑草と害虫の方程式
除草剤を減らしても雑草が生えにくくなる土壌──その科学的メカニズム
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こんにちは、農業・土壌コンサルタントの須藤貴之です。
ニュージーランドを拠点に、Eric Kawabe & Associatesで社長のオテリーアップシャール、コンサルタントの須藤弥彦と3名で農業者のみなさんの土壌改良のお手伝いをしています。
この連載では、土壌の科学をできるだけわかりやすい言葉で、みなさんの実感とつなげながらお伝えしていきます。

須藤貴之
農業・土壌コンサルタント有資格者。ニュージーランドの農業・土壌コンサルティンググループであるEric Kawabe & Associatesに10年以上所属し、アメリカの土壌分析ラボと提携しながら、農業における土壌改善と生産性向上に従事。
除草剤を撒いても生えてくる雑草。
農薬の回数を減らしたいのに、減らすと害虫被害が出る。
そんな「終わりのない戦い」の背景には、土壌のミネラルバランスが大きく関係しています。前回は、土壌には物理性・化学性・生物性という三つの柱があり、どれか一つだけを整えても成果にはつながりにくい、という「三脚モデル」をお伝えしました。
今回は、その中でも化学性の中核をなすミネラルバランスに焦点を当てます。
テーマは雑草と害虫。毎シーズン、手間とコストをかけている問題ではないでしょうか。
なぜ、あの畑は雑草が少ないのか

雑草に負けず、力強く立ち上がる「にじのきらめき」の初期生育。乾田直播。新潟市・戸頭農場(写真提供:代表・廣木 勇人氏)
同じ地域で隣り合う圃場なのに、一方は雑草が多く、もう一方はそうでもない。そんな光景を目にしたことはないでしょうか。
その差を生む大きな要因の一つに、土壌のミネラルバランスがあります。
実際、特定の圃場で雑草が強く出ているとき、土壌を分析するとリン酸過剰やカルシウム不足など、ミネラルバランスの偏りが見つかることがあります。
つまり、雑草の繁茂は単に「防除が足りない」という話ではなく、土壌条件の偏りを示すサインとして読める場合があるのです。
雑草抑制の「三本の矢」
雑草を根本から減らしていくには、段階的に考える必要があります。
第一の矢:除草剤の適切な活用
除草剤を否定する話ではありません。
雑草圧が高い段階では、今ある症状を抑えるための重要な手段です。
ただし、除草剤だけでは「雑草が生えやすい土壌条件」そのものは変わりません。
毎年同じ悩みを繰り返すなら、背景条件にも目を向ける必要があります。
第二の矢:ミネラルバランスの最適化
ここが中核です。
カルシウムやマグネシウムなどのバランスが整ってくると、作物が育ちやすく、雑草が優位に立ちにくい環境へと変わっていきます。
作物の根張りが良くなれば、初期生育で競り勝ちやすくなる。
一方、偏った条件を好んでいた雑草の生育は順調ではなくなります。
こうして、雑草が出にくい土壌に近づいていきます。
第三の矢:健全な作物が持つ、害虫への抵抗力
ミネラルバランスが整った作物は、体の中で栄養を効率よく活かせるため、害虫に狙われにくくなります。害虫は、栄養状態の良い作物よりも、状態の悪い植物を好みます。つまり、作物が健全に育つ環境をつくることは、雑草と害虫の両方に対する備えになるのです。
このメカニズムについては、次の項目で詳しく見ていきます。

ミネラルバランスの取れた牧草地で、虫に食べられているギシギシ(雑草)
害虫は、なぜ出やすくなるのか
第三の矢で触れた「害虫に狙われにくい作物」とは、具体的にどういう状態なのでしょうか。
植物は吸収した窒素を、ミネラルの助けを借りてアミノ酸へ、さらにタンパク質へと変えていきます。ところがミネラルが不足すると、この変換がうまく進まず、硝酸態窒素のまま植物体内に残ってしまいます。
害虫は、複雑なタンパク質を消化する力を持っていません。その代わり、単純な硝酸態窒素を好んで摂取します。つまり、ミネラル不足の作物は害虫にとって「食べやすい対象」になるのです。
逆に、ミネラルバランスが整っている作物は、硝酸態窒素を速やかにアミノ酸やタンパク質に変えられるため、害虫にとっては消化できない対象になります。
ここで大切なのは、窒素を単純に減らすことではありません。必要な窒素を、きちんと使い切れる状態にすること。それが、収量を守りながら虫害リスクを下げる発想です。
「対症療法」から「体質改善」へ
雑草にも害虫にも共通しているのは、除草剤や農薬が今ある症状を抑える手段であるのに対し、ミネラルバランスの改善は背景条件に働きかけるという点です。
現実の営農では、除草剤も農薬も必要です。
ただ、「なぜ毎年同じように必要になるのか」「なぜ減らしにくいのか」と考えたとき、土壌のミネラルバランスという視点を持つことで、見え方が変わってきます。
三脚モデルで言えば、化学性が整うことは、生物性や物理性にも波及します。
その結果として、土壌全体の持続性が高まり、外から抑え込み続けなくてもよい状態に少しずつ近づいていきます。
実際に、弊社が長年関わっている農業者の中には、ミネラルバランスの改善に取り組む中で、農薬の使用量を減らしても十分な防除効果が得られるようになったケースがあります。
雑草と害虫は、土壌からのメッセージかもしれない

雑草も害虫も、サインとして読めるようになったとき、圃場の見え方は変わる。
雑草が生えるのは、単に除草が足りないから。
害虫がつくのは、単に農薬が足りないから。
そう考えるだけでは見えてこないことがあります。
それらは、土壌のミネラルバランスが崩れていることを知らせるサインかもしれません。そのサインを読み取れるようになったとき、雑草と害虫への向き合い方は変わっていきます。
次回は、「データで見直す施肥設計」を取り上げます。
「効いたから、もっと入れよう」という判断が、なぜ土壌のバランスを崩しかねないのか。
肥料価格が上がり続けるいま、必要なものを必要な量だけ補うという考え方を見ていきます。
須藤貴之(Eric Kawabe & Associates)による「土づくり勉強会&Humus活用圃場 視察会」を開催します
この連載でお伝えしていることを、現場で一緒に確かめてみませんか。
2026年7月、Eric Kawabe & Associates所属の農業・土壌コンサルタント・須藤貴之が直接お話しする勉強会と、土壌改善を支援するサービス「Humus」を導入している農業者の圃場を見学する視察会を、東北・関東各地で開催します。
当日のプログラム(13〜20時)
1. 須藤貴之による土づくり勉強会
2. Humus実践圃場の視察会(バス移動)
3. Humus実践農業者を交えた懇親会(会費制・任意参加)
開催日程
● 2026年7/3(金)山形県・鶴岡
● 2026年7/6(月)秋田県・大館
● 2026年7/7(火)青森県・五所川原
● 2026年7/13(月)茨城県・境町
● 2026年7/15(水)新潟県・新潟
会場の詳細は申し込み後にご連絡します。農業者の方のみご参加いただけます。